医学生の皆さんへ
海外臨床留学に興味がある方たちへ
第20期生 2008年初期研修医修了 Thomas Jefferson University Hospital 循環器内科フェロー 岡部 利昌

2011年にThomas Jefferson University Hospital(ペンシルバニア州フィラデルフィア市)にて内科レジデンシー終了し、現在同病院の循環器内科フェロー。2014年7月よりThe Ohio State University Wexner Medical Center(オハイオ州コロンバス市)にて不整脈科フェローシップ開始予定。

亀田総合病院で初期研修をすることがなかったら、こうして米国で臨床研修をすることも、循環器内科、不整脈学を専門として選択することもきっとなかったと思う。
もともと医学生のときから、将来働く場所を日本に限定する必要はないと思っていたこと・研究ではなく臨床で留学することに興味があったこともあり、医学部卒業までにUSMLEの学科試験は終了していた。

亀田総合病院を初期研修先に選んだ理由としては、当時興味のあった総合内科や感染症の研修に定評があったこと・米国臨床留学から帰国された先生が数名いたこと・都会の喧噪を離れてじっくり臨床研修と留学の準備に取り組みたい、と思っていたことなどがある。
面白いことに、自分は卒後3年目からの臨床留学をするという強い信念をもって研修を開始したにも関わらず、実は亀田での研修中に留学するべきかどうか随分と迷うことになる。いつ留学するかではなく、臨床留学すること自体に疑問を抱いてしまったのである。これには様々な理由があるのだが、大きな要素になったのは、各科のローテーション中に臨床家として素晴らしい指導医、後期研修医の先生方と一緒に働き、その先生方の多くが日本でずっと研鑽を積まれていたという、当然と言えば当然の「発見」をしたことで、米国臨床留学に対する偶像崇拝的な憧憬が薄れてしまったことがある。
また、亀田での初期研修そして1ヶ月間の米国での短期研修を通じて、米国臨床留学の弊害、そして無駄で非効率でビジネスライクな米国医療へのちょっとした嫌悪感も抱くようになって(これは渡米して6年経った今でも払拭できないのだが)ますます迷いは深まってしまったこともあった。

医学部5年生のとき、The Ohio State Universityに3ヶ月間交換留学として病院実習したときには、このような視点はまったくうまれなかったし、当時自分より歳の変わらない米国の内科レジデントが知識豊富で、すらすら最新の論文を引用する姿に憧れを抱くのみであった。今から思えば、なんと無知で世間知らずの医学生だったことか・・・。

亀田総合病院での2年間の研修は「優れた臨床家」を育成するという観点で、本当に素晴らしいものであった。
亀田における研修の特色としては、初期研修医に与えられる責任(autonomy)と、上級医からの指導、監督(supervision)が絶妙なバランスで、各科において初期研修医が率先して治療方針を決めつつ、上級医が常にサポートすることで、全体として安全で質の高い医療が実践されている点にあったと思う。これは、高い訴訟リスクのためか研修医のautonomyを過度に制限する方向性にある米国トレーニングが見習うべき観点かもしれない。
自分はずっと内科志望ではあったが、外科・救急科・麻酔科ローテーションでは医学知識だけでなく、本当に、医師として全身全霊で救命にあたる上級医の献身的な姿勢に感銘をうけるとともに、多くの目標となる医師に出会うことができた。一生の財産である。亀田の循環器内科での研修を通して専門としたいテーマも見つかった。

いろいろ迷ったが、「外の世界を見てみたい」という抑えがたい好奇心と、一度思い立ったことは完遂すべきという生来の頑固さもあり、結局初期研修2年の秋に、内科レジデンシーマッチングのための米国面接旅行に赴き、無事に予定通り卒後3年目からの内科レジデンシーの開始にこぎ着けた。
それから6年経ち、数えきれない良いこと、嫌なこと、笑ったこと、泣いたこと、幸福なこと、辛かったことがあり、さらに2回、全米中を帆走する就職活動(循環器内科フェローシップや不整脈フェローシップ)も経験もしたが、自分で選択した道に後悔はない。

一般的に、米国臨床留学の準備(USMLE、Visaや州毎の医師免許申請に関する書類)には多大な労力と時間が必要で、同僚が楽しく居酒屋で盛り上がっているときにコツコツ勉強して、膨大な書類の準備をしないとならないことも多いと思う。
渡米後、扶養家族がいる場合にはなけなしの研修医の給料で、特に都市部に住む場合には家計が火の車になることは間違いない。我が家も例外ではなく、1ドルでも安いスーパーマーケットをはしごして、コツコツ節約する妻には一生頭があがらない。患者さんもまったく遠慮がないので、受け持ち患者さんに罵倒され、担当医を替えて!と言われたことも数えきれない。米国医療そして社会の汚点、陰の部分を目の当たりにしない日はないと言っていい。だから、米国臨床留学を万人に勧めるつもりはまったくない。
でも、もう一度人生があってやりなおすことがあっても、自分はやっぱり亀田に行って、そして米国留学に挑戦していたと想像する。辛いのに、なぜか精進、邁進したくなるそういう変な魅力が臨床留学にはある。

亀田での初期研修中、米国留学の準備に関して特に二人の先生が惜しげないサポートとガイダンスを与えて下さった。当時卒後研修センター長であった西野洋先生、そして腫瘍内科部長の大山優先生である。本当に感謝してもしきれない。また、一緒に研鑽を積み、お互いに励まし合った初期研修医同期は、一生の宝である。

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